割増賃金の基礎から除外できる住宅手当の考え方
2019.04.11
木戸部長:
こんにちは。今年も4月に新入社員が入社しました。やはり職場の雰囲気が変わり、上司や先輩社員の意識が変わるので今後も続けていきたいなと思っています。
社労士:
新入社員の効果ですよね。何人の方が入社されたのですか?
木戸部長:
はい。今年は3名の入社を予定していたのですが内定辞退があり、結果、1名のみの入社となりました。内定を複数社からもらい、条件の良い会社に入社を決める学生も当然ながらいるため、苦戦しているところです。
坂本社長:
今後も当面、人手不足が続くことが想定されますので、地元での採用のみでなく遠方からの採用も考えようと思っています。遠方から引越しをして当社に入社するという学生も出てくるため、新しく住宅手当の導入をしたいと考えています。
社労士:
なるほど。確かに新入社員にとって住宅にかかる費用の負担は大きいと想像しますので、採用にプラスに働くかも知れませんね。
木戸部長:
はい。入社にあたり賃貸住宅に住み、従業員本人が賃貸契約の契約者となっている場合に月額30,000円を支給する予定です。
坂本社長:
既存の従業員でも条件に該当する者がいます。採用を意識して新設する手当ですが、従業員間のバランスも考えると、既存の従業員も対象とするつもりです。ただし、いずれも支給対象者を入社から5年まで、かつ、30歳の誕生日が属する月までに限定したいとも思っています。
社労士:
なるほど。相対的に賃金額が低くなりがちな従業員に支給するイメージですね。ちなみに持ち家の従業員についてはどのようにお考えですか?
坂本社長:
今回の住宅手当を新設することにあたり、持ち家の従業員に対する手当も考えたのですが、会社の負担が大きくなることもあり、見送りました。
社労士:
そうでしたか。わかりました。割増賃金の基礎となる賃金から除外できる住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいいます。今回、新設される手当は支給する対象者に条件はあるものの、賃貸住宅という形態を見ると一律に定額で支給することになっているので、割増賃金の基礎となる賃金から除外できる住宅手当には該当しません。
木戸部長:
そうでしたか!できれば割増賃金の基礎となる賃金から除外したいのですが、どのようにするとよいのでしょうか。
社労士:
厚生労働省の説明によれば、住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給するものは、除外できる例として挙げられています。具体的には、賃貸住宅居住者には家賃の一定割合、持家居住者にはローン月額の一定割合を支給する場合という例が示されています。
木戸部長:
いまの説明に基づいて考えると、弊社の場合、例えば「家賃の50%(上限30,000円)を支給する」というような方法で住宅手当を考えるとよいということですね。
社労士:
そうですね。それであれば問題ないでしょう。ちなみに、割増賃金の基礎となる賃金から除外できるものというのは、労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支給されていることなどが理由となっています。一律の支給額だと、個人的事情とはいえないということが判断基準なのでしょうね。
坂本社長:
承知しました。それではその方向で基準を明確にすることにしようと思います。他の従業員とのバランスもあるので、制度の拡大も念頭に置き、一度やってみようと思います。
社労士:
そうですね。住宅手当の運用では、地元で採用し実家からの通勤が可能であるにも関わらず、一人暮らしをする従業員の対応はどうするかといった問題や、会社からかなり離れたところに住宅を賃貸し通勤手当も高くなるときはどうするかといった問題が出てきます。
木戸部長:
なるほど、そのような点を考えると、先ほどご説明いただいた個人的事情が大きい手当だと実感しますね。想定しきれないものもあると思うので、疑問が発生した都度、細かな運用ルールを作ることで、統一的な運用ができるようにしたいと思います。ありがとうございました。
ワンポイントアドバイス
ここでは割増賃金の計算式について確認しておきましょう。月給制の場合の割増賃金は、割増賃金の対象となる所定賃金(月額)を、1ヶ月の所定労働時間数で除して1時間当たりの賃金額を算出し計算します。2019年は、天皇の即位の日および即位礼正殿の儀の行われる日が休日となることで、国民の祝日を休日としている会社では休日が増加することになります。1ヶ月の所定労働時間数は、年間の所定労働日(所定労働時間数)に基づいて算出されるため、休日が増えたときには1ヶ月の所定労働時間数も変更になります。割増賃金の計算式が適切なものとなっているか、チェックしてみてください。
参考リンク
厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金とは?」※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。