パートが年休を取得した場合の賃金支払いにおける留意点
2019.04.02
働き方改革関連法により、年次有給休暇(以下、「年休」という)の取得義務化の対応を進めている企業も多いと思いますが、実務を考えるにあたって、パートタイマー(以下、「パート」という)の年休の運用で問題が発生しているという事例を多く耳にします。そこで以下では、パートが年休を取得したときの取り扱いを、賃金の支払いを中心に確認しておきます。
[1]年休の付与ルール
年休は従業員が雇入れの日から6ヶ月継続して勤務し、その6ヶ月間の全労働日の8割以上を勤務した場合には10日が付与されます。年休は正社員だけでなく、パートに対しても付与され、その日数は各パートの所定労働日数に比例して決定されます。
2019年4月からは働き方改革関連法の成立に伴い、全ての企業において年10日以上の年休が付与される従業員に対し、その日数のうち5日については1年以内に時季を指定して取得させることが義務付けられました。パートであっても付与される年休の日数が10日以上の場合は、この義務の対象となります。
[2]パートが年休取得した場合の賃金の支払い方法
年休の取得が義務化されたことにより、これまで以上に年休の付与や取得において確実な管理が求められることは言うまでもありませんが、併せて年休を取得した際のパートへの賃金支払いにも注意しなければなりません。正社員は一般的に月給制のため、年休を取得した日に対し追加で賃金を支払うことはありませんが、パートは一般的に時給制のため、年休を取得した日の賃金をどのように扱うか決めておく必要があります。
年休を取得した日に対する賃金は以下のいずれかの方法で支払うことになります。
- 通常賃金
通常賃金とは所定労働時間どおりに働いたとした場合に支払う賃金のことをいいます。パートで日によって所定労働時間が異なるケースでは年休を取得した日の所定労働時間分賃金を支払うことになり、所定労働時間の長短によって支払われる賃金が異なります。 - 平均賃金
平均賃金とは、原則として年休を取得した日以前3ヶ月間の賃金の総額をその期間の総日数(暦日数)で除した金額のことをいいます。この方法によれば1.のように年休を取得した日の所定労働時間の長短によって賃金が異なることはありませんが、年休を取得する都度、平均賃金の計算をすることになり、事務処理が煩雑になります。なお、平均賃金には最低保証という考え方があり、年休を取得した日以前3ヶ月間に労働した日数で賃金の総額を除し、その金額の100分の60が最低保証として定められています。 - 健康保険標準報酬日額
標準報酬日額とは健康保険の標準報酬月額を30で除した金額のことをいいます。これを利用する場合は従業員の過半数を代表する者等との労使協定を締結します。健康保険の被保険者でない者には適用できないこともあり、あまり利用されていません。
企業は[2]の1.~3.についていずれも選択することができますが、従業員が年休を取得する都度、計算方法を選択する(変更する)ことはできません。いずれの方法で計算するかをあらかじめ決定し、就業規則等に定めておかなければなりません。
参考リンク
東京労働局「しっかりマスター労働基準法有給休暇編」※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。